国家は国民を守らない

高遠さんら198万円支払い=帰国の航空料金?外務省から請求書・邦人人質事件(時事通信) from Yahoo!ニュース 2004.4.26

 たぶん多くの人が取り上げているのだろうけど、どうしてもちょっとだけ言いたくなっってしまう。

 NGOなど民間でのイラクでの支援活動(もちろん日本も含む)は、第2次イラク戦争が始まるはるか前から行われているのだけど、その活動をやりにくくしたのは、ウソの「理由」と「大義」によって無理矢理イラクに侵略していった米英中心の「有志連合」諸国政府の行為であることは間違いない。これによって、イラクは「危険な地域」と化した。
 戦争の序盤は、ほぼシナリオ通り米軍の圧勝で終わり、昨年のメーデーには「戦闘終結宣言」が出された。しかし、本格的に戦争が始まったのはその後。占領に対する不満がどんどん広がり、始めは散発的だった武力による抵抗がどんどん規模を拡大し、ゆるやかな連携までうかがえるほどの組織的な抵抗活動となっている。
 いま米軍は、自国「民間人」殺害者の摘発を理由に、ファルージャという街を包囲し殲滅しようとしている。すでに女性、子供、老人を含むイラクの民間人700人以上が犠牲になっているという。それほどの虐殺をしたとしても、かえって地元のイラク人たちの抵抗の拡大に遭い、その勢いを止められなくなっている。侵略戦争開戦から1年を過ぎた現在、米英「有志連合」軍による占領支配は、イラク人たちの反抗を抑えられなくなっている、と見るのが多分正確であろう。
 そんなイラクに、我が日本国政府は、「人道支援」を大義名分に自衛隊約600人を「派遣」した。しかし、その実態は、米軍関連の物資輸送等も行うなど、CPA(暫定占領当局)に認められた米英占領軍のれっきとした一員である(「自衛隊員の法的保証を確約 CPAが日本政府に」(京都新聞2004年1月20日))。米英「有志連合」とイラクの住民双方から、占領軍の一員と見なされる立場でイラク入りしているのである。

 日本の自衛隊が、明確に占領軍の一員としてイラクに登場したことによって、日本人が「イラクの敵」と見なされる状況が生まれた。それは、まぎれもなく武器を持った自衛隊をイラクに派遣した日本政府の行為の結果である。そして、これが、イラクにおける日本の民間支援活動の障害となってしまった。その延長線上に、今回の邦人5人の拘束事件がある。
 政府は「自衛隊は連合軍司令部の指揮下にない」などと言っているが、実際に航空自衛隊が米軍など「有志連合」軍の兵士をC130機で輸送したのを認めていることを見ても明らかなように、明らかに米英「有志諸国」軍の「後方支援」活動という具体的な占領軍支援活動を行っている。これをもって自衛隊がイラク占領軍と見なされても当然であろう。どのように言いつくろってみても、実質的には自衛隊派遣は「イラク戦争への参戦」と同義なのだ。
 すでに日本は戦争に参戦している。

 そして、占領軍の中心である米軍が彼の地で何をしているかを考えれば、現地の住民が占領への抵抗活動に立ち上がるのに不思議はない。自分の住んでいる土地での生活を守るために立ち上がるのは当然の成り行きである。誰だって同じ境遇に置かれたら、同じような想いを持つだろうと思うのだ。
 今回の人質事件は、同時期に外国人の民間人を狙った拘束事件のひとつとして起きた。しかもそれは、ファルージャという「激戦」となっている街の周辺で集中的に起きた。犯人像や要求の内容についていろいろと議論が飛び交っているが、地域住民が抵抗のために起こした行動のひとつが「外国人拘束」だったのだろうという推察はつく。

 「外国人拘束」という行為の是非はここでは問わない。ただはっきりしているのは、現地の住民たちは、そのような行為に出ざるをえない状況に追い込まれている、という事だ。自分の住んでいる街が戦場になるという事態に。そしてそういう事態を作ったのは間違いなく米軍である。それに支援する日本は、当然の結果として「敵」と見なされる。

 日本政府は、そういう事態を自ら作り出しておいて、その結果の一つとしての「人質事件」の責任を被害者になすりつけるという「無責任」ぶりを如何なく発揮した。自らの行為によって起こった結果の責任を引き受けない卑怯な振る舞いは、記憶にとどめておくつもりだ。

 国家は国民を守らない。それがわかった。
 「守れない」のならまだ分かる。「守れる」ように何をするか考えればいいからだ。しかし「守らない」ということは、そういう余地さえない。そういう国家はひっくり返すしかないのではないか。
 いずれにしても国家ってのは放って置くとロクなことをしない。それを、今回の事件で再認識させてもらった。

(追記 2004.4.30:余分な文章が削除されずに残っていたので、それを修正しました。=第11段落目末尾「それに「日本人」全体が含まれるのは」を削除)

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