鳩山内閣の退陣をうけて、慌ただしく発足した菅内閣の支持率が60%超だという。民主党の支持率も大幅に上がっているようだ。もう、ただただ鳩山・小沢体制がいやだっただけなのだろうか。中身=掲げる政策は寸分たりとも変わってはいないのに、である。
普天間基地の「最低でも県外」への移設は完全に反故になり、沖縄県内たらい回しを事実上決めた。廃止を約束していた障害者自立支援法は、自公と一緒になって事実上延命させた。後期高齢者医療制度の廃止も労働者派遣法の改正も最低賃金の引き上げも先送り。財源確保のための事業仕分けも、肝心なところにふみこまないから、パフォーマンスの割には捻出される額が少なくなった。
なのに、鳩山内閣に比べ支持率はV字回復だ。まるで政策などどうでもいいかのような支持率の「数字」である。
そんな支持率の回復を見越してか、菅内閣からは、法人税減税とセットになった消費税増税への言及が公然となされるようになった。「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」のために不可欠だと言わんばかりだ。
確かに社会保障を充実させるためには、その方面への大幅な歳出増が必要であろう。経済規模に比べ、貧弱な社会保障しかないが故に、長い間社会に深刻な問題が数多く引き起されてきたのは論を待たない。社会保障を充実させなけければ、安定した社会なぞとても望めない状況にあるのは、どんな立場の人でもある程度共通にある課題だと思う。
しかし、それを「財政再建」とセットで論じるのは、はっきり言って矛盾している。経済成長が当面望めないなかで財政再建をするには、まず歳出削減をすることになる。社会保障の現状は、歴代政権の度重なる削減政策のおかげで、どんどん国民負担が増やされてきた。それは、経済の低迷で苦しくなっている国民生活の現状との矛盾を引き起こす事態になっている。これを解消するためには、減らされ続けた社会保障への歳出を回復させ、国民負担を軽減することが急務だと言える。それは、深刻な供給過剰・需要不足に陥っている国内経済の、需要を回復させる貴重な一歩となりうる。それこそ菅首相の言う「過剰な外需依存を改め、安定した内需の確立に」つながるものである。社会保障への歳出増にはそういう効果が期待できる。
それなのに菅内閣は、社会保障強化を経済強化と財政再建とセットで出してきた。しかも主要閣僚はさらに踏み込んで、法人税率の引き下げと消費税増税をセットにと発言している。税負担の軽減で経済活動の活性化を支援しつつ、財政再建と社会保障拡充を消費税増税でまかなおうという狙いである。企業負担の軽減と国民負担の増加という政策である。
しかしこの政策は、細かい違いはあれど歴代の自民党政権がずっと採用してきた政策だ。企業負担の軽減と、主に社会保障の削減を軸とする国民負担の増加という路線は、特に小泉政権時代にあからさまに推進された。その結果がどうなったか、説明するまでもないだろう。あまりに矛盾を拡大させた結果、小泉以降の自民党政権はその矛盾をどうすることもできずに自壊していった。
その破壊された社会保障を立て直すという方針自体はよしとしても、それを消費税増税という国民負担の増加で行うというのは基本的に間違っている。なぜならそれは、これまで年々増加してきた国民負担の軽減にはならず、社会保障の負担が軽くなった分が消費税増税でチャラになってしまう。経済強化のための過度な外需依存の解消と安定した内需の確立を掲げながら、その内需の5割超を占める国民の最終消費を回復させるどころか、冷え込ませる可能性さえある消費税増税に言及するのを、矛盾と言わずしてなんと言うべきか。
自民党政権時代に事実上破綻した政策を、改めて前面に打ち出す菅民主党政権は、何のことはない「第二自民党」政権だと言われても仕方あるまい。なにせ1989年の導入以来、2008年までの20年間の消費税の累積税収が201兆円で、同期間の法人税減収額は164兆円。消費税の税収の実に82%が、法人税の減税の減資に使われてしまっているのだから。(菊池英博公述人:消費税抜きでの税収増を考えるべき|第174回国会予算委員会公聴会 from ★阿修羅♪)
社会保障のためと言いつつ、まったくそうなっていない「実績」が既にある。そんな事実を直視しないで、法人税減税とセットで消費税増税を持ち出す菅民主党内閣の「正体見たり」と言うところだろう。