少々古いネタですが・・・
700万円が分かれ目、再分配で所得減 厚労省調査 (朝日新聞) - from goo ニュース 2004.6.26
所得格差がさらに拡大/所得再分配調査 米英に次ぐ大きさ from しんぶん赤旗 2004.7.2
労働分配率:低下続け、バブル崩壊後最低水準に from MSN-Mainichi INTERACTIVE 2004.7.8
上ふたつの記事は、厚生労働省の「平成14年所得再分配調査報告書」についての記事、3つ目の記事のデータは、同じく厚生労働省の「労働経済指標」から取得できます。
税・社会保険料等を差し引く前の所得(当初所得)の格差が開く一方で、年金などの社会保障による所得再分配では、差し引きプラスになる水準が上がり、年収約700万円っているとのこと。しかし、当初所得と再分配所得の格差は、1984年以来連続的に悪化しており、84年調査以降で最悪の水準になっているらしい。
しかも企業の付加価値(利益など)のうちの、労働者の取り分がバブル経済崩壊後で最低の水準に陥っているという。景気回復時には労働分配率は下がる傾向になるらしいので、これでもって景気回復の裏づけとなるらしいが、労働分配率の低下そのものはいわゆる賃金抑制であるので、労働者世帯の家計にマイナスに影響するとのこと。個人消費の低迷によるデフレの進行をもたらす面があるので、持続的な景気回復とデフレ脱却のために賃上げが必要だという。
得てして企業は、人件費もコストであるとし、「国際競争力の強化のため」などと言って、コストアップ要因である賃上げを抑制しつづけてきた。しかし、今喧伝されている「景気回復」は、企業(それも大企業)がリストラという名の首切り・人員整理などを大規模にやって(しかも政府はそれを後押しした)利益を確保したことによるものだろう。日本経済はGDPの約6割を個人消費が占める構造(2000年現在、GDP約512兆5838億円に対し個人消費が約286兆7422億円で55.9%。残りは企業設備投資や国・自治体の公共投資等)になっており、その個人消費を置き去りにした「景気回復」が、持続的な回復にならないのは自明ではなかろうか。
結局、一国の経済は、個人消費の動向に左右されるものなんだろうなあ、と思う。政府与党の面々は、不景気の理由を「市場に出まわるお金が足りないからだ!」と言って、ゼロ金利にしたり金融機関に「不良債権」の処理を急がせて、お金をじゃんじゃんマーケットに流しこんだけど、モノを生産する企業にお金を貸し込んで「使え使え」と急かした所で、作ったモノ(サービスや情報など形のないものも含む)を最終的に買ってくれる個人消費が上向かない限り、設備投資する意味もなかろう。だから政府は、伸びない消費をカバーするために、自ら道路などの公共事業をどんどん行い、地方自治体にも行わせることまでしたけど、一時的な効果に留まり、むしろ無駄なものを作ったことによる後始末にカネがかかるような状況を作り出している。
先ごろトヨタ自動車が最終利益1兆円超を達成したのは記憶に新しい所だがが、これに代表されるように、大企業・多国籍企業の業績は回復の方向にある。
だったら、その増えた利益の一部を労働者の賃上げに回すことで、景気回復をサポートできるんではないかい?と思えるのだが、どうだろう。
ちなみに少々古いデータで恐縮だが、全労連の「2004年国民春闘白書」によると、日本の主要大企業20社の連結内部留保(有価証券報告書記載の「連結剰余金」「資本準備金」「退職給付引当金」「長期負債引当金」の合計)が2003年に39兆円にのぼるという調査報告がある。2001年に比べ、親会社単独で6万人の人員削減(連結対象の会社を含めた全体では約2万人増)をする一方で、内部留保(親会社単独)は約2兆円増やしているとのこと(このことを紹介している記事=しんぶん赤旗2004年1月7日付。ちなみにこの全労連調査を報道した一般メディアは見当たらず。私が知らないだけかもしれないが・・・)。
たとえば、上記の記事にある表の数字からある計算をしてみる。主要20社の関連会社を含めた従業員数は177万3112人で、同じく内部留保は約39兆1513億円。この全員に一律月額3万円の賃上げを行うとしたらいくら必要になるか。
3万円×177万3112人分=531億9336万円。一時金を年間6ヶ月として、単純にこれの18ヶ月分を計算すると、一年分の賃上げ原資に必要なのは9042億8712万円。
これは内部留保総額の約2.45%。たったこれだけの額を分配するだけで、消費が活性化して景気が浮揚するなら安いものだと思うのだが。というより、それぐらいの要求(3万円程度の賃上げ)をしたところで、当座の会社経営にはほとんど響かないことがよくわかる(もし影響が出るとしたら、それは経営の仕方がダメなのだろうと思う)。「不況で経営が大変だ」とか「雇用確保が優先」などとさんざん言われ、連合などは春闘をしなかったりまともに賃上げを求めなかったりするが、少なくとも主要大企業を取り巻く状況は全く違うと言えるだろう。賃上げ要求をしないことが、如何にバカバカしいことかがよくわかる。
貧富の差が開くということは、一部の企業や人間に富が集中し、多数の人間が生活を維持するのもやっとという状態に陥ることであり、それだけ国民経済が疲弊することになる。今回の調査で厚生労働省は、再分配で所得の均等化が図られているとしているが、中長期的な推移では確実に所得格差が開いてきていることを見ると、ほんとに「アメリカ化」しつつあるのだなあと思う。