批判される「ルール破り」、批判されない「ルール破り」

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大野晃のスポーツコラム 五輪、悪しき特例に報道も加担 from JCJ日本ジャーナリスト会議 文化・ひと=文化の窓 2004.5.5

 今年のアテネオリンピックの、テコンドー日本代表選手派遣をめぐるドタバタについて、スポーツジャーナリストの大野晃氏が「悪しき特例」として考察を行っているコラムに考えさせられた。
 今回のテコンドーの選手派遣の決定は、政府・文部省(現文部科学省)がJOCに圧力をかけ、それにJOCが屈したという悪しき歴史の繰り返し、というのである。

 今回のテコンドー競技団体の分裂騒動が、分裂前の統一団体だった日本テコンドー連盟の役員の主導権争いに端を発しており、JOCは2年前から主要大会への選手派遣を取り止め、競技団体のJOC準加盟も取り消して団体一本化を求める対応を行っていた。しかし、分裂した両団体(日本連合と全日本協会)はいっこうに一本化の対応を行わず、一方の全日本協会の会長である衛藤征士郎自民党衆院議員が、出場を求める9万人余の嘆願署名を利用して「個人参加」という「特例措置」を求め、それを受けたた河村文部科学相がJOCに「圧力」をかけ、いったん自主決定という姿勢を見せたJOCも、結局「圧力」に折れて「個人参加」を認めた、というのが、大野氏の解説する今回の事態の経過である。
 当初私は、分裂するほどのドタバタをしている団体の争いのとばっちりを受けて、せっかく出場権を獲得した選手がオリンピックに行けないのはかわいそう、と思っていただけに、このコラムを読んでいろいろ考えさせられた。

 大野氏のコラムによれば、役員の主導権争いで分裂した一方の団体の長(しかも多数派)が自民党の議員で、その人は、団体の一本化に責任を負っているにもかかわらず、「出場させろ」という世論を利用して政府・与党を通じてJOCに「圧力」をかけた、とある。そうならば話は違ってくる。
 団体の分裂に至るまでに何があったかはわからない。だが、団体一本化が出場の条件であるならば、とりあえずでも団体一本化をするべきであった。それが選手の立場に立った対応策だと思う。なのに、それをしないで一方の団体の長が世論をバックに、政府という権力を利用して「圧力」でルールを変える。言い方を変えれば、選手の立場に立った対応(団体の運営)をせずにおきながら、一方で世論をバックに「選手の立場を代表」するかのように振る舞い「圧力」をかけるのは、やっぱりおかしい。

 そしてそういう事情があることをマスメディアの人間は知り得たわけで、にもかかわらず「選手がかわいそう」という論調でしか報道しなかったマスメディアもおかしい。「競技団体を厳しく監視して責任を問い、JOCが独立してルールを堅持することを促すこと」が課題のはずのメディアのその行為は、メディアの役割と責任を放棄するもの、と大野氏は批判するのは当然と思う。メディアが、このような事情も含めて報道していれば、この件に対する私の印象も多少は変わっていたかもしれないと思うのだ。今回の件で、メディアは非常に「感情」に寄りかかった報道をしていたと、大野氏のコラムを読んで思った。

 そして、このコラムを読んで同時に思い出したのが、先のイラクでの人質事件での被害者とその家族への「バッシング」現象」である。
 先のエントリーで私は、このバッシング現象について「枠をはみ出た行為自体が許せないのでは」と書いた。もし、世論にそういう気分感情が今でもあるのなら、今回のこのテコンドー選手派遣をめぐるドタバタについても、一方の団体の長が「選手派遣」を「要請」した行為は「枠をはみ出た行為」となるのだが、世間の皆さんはいったいどう思うだろう、と考える。
 競技団体が分裂したことで、オリンピック派遣が危うくなったのに、その分裂状態を是正しようとせず、一方の団体の長が、衆院議員・与党議員という立場と政府と「世論」を利用してJOCに「出場」という「圧力」をかけたという行為は、競技団体の運営という面からも選手の立場からも無責任と言わざるをえず、むしろそういうドタバタ状態を利用して、自らの影響力強化を図ったのではないか、と勘繰りたくなるぐらいである。

 こういう背景があることが知らされれば、同じニュースでも受け取り方は大きく変わるものである。それは先のイラクでの人質事件の報道についても同じである。で、イラクの人質事件もテコンドーのオリンピック選手派遣も、実際の報道としては、事実を背景も含めて捉えたというよりは、「感情」によりかかった内容になっていたのではないかと、今さらながらに思い知らされた感じである。だから、同じ「ルール破り」でも一方は過激なまでに非難され、一方は当事者がかわいそうですまされる。

 「感情」によりかかった報道では、真実は見えづらい。そう思った。

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