ちょこっと古い話題で恐縮ですが、2月20日に天木直人氏(前駐レバノン全権大使)の講演会に行ってきましたので、その感想をば。
2月20日?22日に、東京・八丁堀で行われた中央区・平和のための戦争展の中の講演会だったのですが、小さな会場に120名も集まり、なごやかながら賑やかな講演会となりました。
講演会で天木氏は、自衛隊派遣をめぐって、氏自身も参加する箕輪さんの小泉違憲訴訟などをとりあげ「戦争を知る世代が今度は反対と言いはじめた」、一方で「戦争を知らない安倍幹事長や石破長官が軽々に戦争を語るのはつくづく残念」と語りました。「戦争は外交の破綻」「イラク戦争は、イスラエルの安全保障と石油資源のコントロールというアメリカの都合で行われたもの」と指摘、「まともならとてもアメリカを支持できないはず」などと語りました。
それで、こういう意見を持つようになった背景として、大使として赴任したレバノンで、想像を超えたアメリカ憎しの現象を見たことがあると話していました。パレスチナ問題は、イスラエルとパレスチナ、アラブの争いと見られがちだが、アラブとパレスチナの間にも相当大きな溝がある。イスラエル周辺の諸国に拠点を置き、武装活動を続けるパレスチナ過激派(ヒズボラなど)に対するレバノンやアラブ諸国の反発と、一方で長年イスラエルと争っているパレスチナにしてみれば、ほとんど支援らしい支援をしてこなかったアラブ諸国に対する不信感から来る対立もかなり深刻で、そこへアメリカが相当な親イスラエル政策をとるものだから、この土地での「アメリカ憎し」の思いは増すばかりだった、と語りました。そういう歴史的に複雑な問題を抱えている地域に、国連での手続きさえ無視してイラクで戦争を起こしたアメリカの行動が、いかに道理の無いことであるのか、レバノン大使という仕事をしてなければわからなかったかもしれない、と話していました。
話の中で面白いと思ったのは、イラク戦争前後の情勢に対する外務省や大使たちの振る舞いのことです。年2回ほど大使会議というものがあるらしいのですが、その中で中東諸国に赴任している大使22名は、イラク戦争やアメリカに対してどういう立場で望むかということについて、ほとんど議論らしい議論をしてこなかった、もう最初から「何を言ってもしかたない」という状態だったそうです。イラク開戦直前の会議では、情勢の検討すらまともにされなかった。アラブ情勢を現地で見聞きしているはずの大使たちが何もしないで、自衛隊派遣が決まっていったと指摘していました。
あともう一つは、憲法と安保条約についての話の中で、昭和天皇がマッカーサーと11回も会見していたこと、マッカーサー以降の担当者ともひんぱんに会見し、戦後日本外交の基礎を作る時期だった1951年ごろまで外交政策に関っていたことです。戦後の内閣が憲法制定や講和条約の締結などさまざまな外交を展開していた一方で、天皇自身も別のルートで外交に関っていたのではないか、いわゆる二重外交が行われていたとの疑いがあるとのこと。「安保条約の成立」(岩波書店)という本を読んで知ったと断った上での話でしたが、その本を読んで、重要なのは情報公開であり、私たちは事実をつかんだ上できちんと政府にモノを言っていくことが大切であるという教訓を引き出すべきと語っていたのが印象に残りました。
世の中には、「現実にはアメリカと協力せざるをえないから、自衛隊派遣はやむを得ない」とか「アメリカと行動をともにしてこそ日本の未来がある」みたいな意見も少なからずありますが、世界がいま求めているのは、アメリカに対してはっきり筋を通して意見・苦言を言うことであり、世界第2位の経済大国である日本に、そういうスタンスをとることが期待されている。そういうことがわかりやすく理解できた講演会でした。